胃がん
胃がん手術デモを開催しました
岐阜市民病院は地域がん診療連携拠点病院として、癌治療の均てん化(全国どこでも、がんの標準的な専門医療を受けられるよう医療技術等の格差の是正を図ること)という任務を持っております。その一環として平成22年5月28日、日本はもちろん世界の胃癌外科治療をリードしておられる癌研有明病院(http://www.jfcr.or.jp/hospital/medical/clinic/gastro.html)上部消化管担当部長の佐野 武先生にお越しいただき、上部進行胃癌に対する手術デモを行っていただきました。

ちょうど今年、平成22年3月に「胃癌取扱い規約」が改正(第14版)され、それに伴ってまもなく胃癌治療ガイドラインも新しくなります。そこで新胃癌治療ガイドラインに基づいた上部胃癌に対する標準的胃癌手術(胃全摘術+2群リンパ節郭清)を見せていただきました。周辺医療機関(岐阜大学、村上記念病院、県総合医療センター、西美濃厚生病院、山内ホスピタルなど)20名以上の外科医師が佐野 武先生の手術を見学しました。手術をしながら佐野先生の手術手順についての細かい説明を聞きながら、系統だった新しい胃癌治療ガイドラインに基づいた2群リンパ節郭清を見学できました。新胃癌治療ガイドラインの大枠はすでに今年3月新潟で行われた第82回日本胃癌学会総会でのコンセンサスミーティングで定まっており、まもなく完成されたものが出版されることになっていますが、それを先取りしたかたちで学ぶことができました。
今後も、このような癌治療の均てん化活動を続け、岐阜の地での癌治療の質向上に努めてまいります。
副院長兼外科系診療局長 種村廣巳
がんセンター長 大下裕夫
消化器外科部長 山田 誠
胃がんとはどんな病気?
胃がんは胃の壁の粘膜から発生します。したがって胃の中からバリウムによるX線検査や内視鏡検査を行うと早期に診断することが可能です。胃がんは固まりになっていぼの様に隆起したり、がんのところが潰瘍のように凹む場合が多いのですが、時々、表面に発育しないで粘膜の深いところを這うように広がってゆく場合があり、このようなケースでは早期診断は難しくなります。
胃がんは遺伝する病気ではありませんが、祖父母、両親や兄弟に胃がんにかかった人がいる場合には注意が必要です。食生活を中心とした生活習慣が引き継がれているため同じような刺激が胃に加わっていると考えられるからです。また、胃がんになりやすい要素(遺伝子の異常を修復する機能の低下)が遺伝していることも知られています。
消化器のがんの中で胃がんは大腸がんと並んで治りやすいがんの一つです。それは、X線検査や内視鏡検査の診断レベルが向上して早期の胃がんがたくさん見つかるようになったことと、安全にしかも十分な手術ができるようになったからです。もちろん抗がん剤を用いた治療も一歩一歩進んでおり、手術で治せない場合や再発した胃がんの治療に少しずつ成果を上げつつあります。早期の胃がんに対しては、患者さんにとって負担や障害の少ない手術法も工夫されています。一般に胃がんの治療を受けても、多くは立派に社会復帰できます。たとえ胃を全部取ってしまっても、多くの場合には元通りの仕事を続けることができます。胃がんという病気をよく理解し、早く診断し、自分に最も適切な治療方法を主治医と相談することで最善の結果を得ることができます。
胃がんの進行程度について
胃の壁は粘膜(M)、粘膜下層(SM)、その下の筋肉層(MP)、一番外側の漿膜層(S)、そのすぐ内側の漿膜下層(SS)にわかれます。
胃壁の構造

胃がんの転移形式
胃がんの3大転移の仕方としてリンパ行性転移、肝転移、腹膜播種性転移があります。
深達度
胃がんの進行程度を決める因子として、深達度(がん細胞が胃壁のどのくらいの深さまで達しているか?)があります。
これはTという文字で表現されます。

T1: 胃がんが粘膜、粘膜下層に留まっている。
T1: 胃がんが筋層までおよんでいるが、胃の表面には顔を出していない。
T1: 胃がんが胃の表面に露出している。
T1: 胃がんが他の内臓や組織に広がっている。
リンパ節転移の程度
リンパ節転移への転移は、リンパ節転移の程度によって手術で取り去ることができます。
胃からの広がりに応じて第1群リンパ節(N1)、第2群リンパ節(N2)、第3群リンパ節(N3)に分類されている。

胃がんの進行程度と治療法
表 胃がんの病期とその治療ガイドライン

上の表のように胃がんの病期(ステージ)はIA、 IB、 II、 IIIA、 IIIIB、 IVの6つに分かれます。
早期胃がんは、ほとんどがIAとIBに入ります。ステージIA、 IBは治癒する可能性が極めて高い病期です。
ステージIAでは、手術ではなく内視鏡による治療(EMR)でも治る可能性があります。IIは中くらいに進んだ胃がんで、手術により治る可能性が高い病期です。IIIA、IIIBは進行癌ですがまだ手術で治る可能性のある病期ですが、IVになると胃がんが遠くの臓器に転移した状態で、現在の医学では完全に治すことが難しくなります。
本院における胃がんに対するEMRの症例数
早期胃がんは、がんが胃の壁の浅いところまでに留まっているもので、手術すればそのほとんどの患者さんが完全に治ります。最近、リンパ節転移の少ない胃がんがどのようなものか分かってきました。リンパ節に転移していなければ、リンパ節をとる必要がないので、内視鏡で胃がんを完全に取れれば、それで癌は治ることになります。たとえば、胃の壁の粘膜(Mといいます)の浅いところにある胃がんで、2cm以下の分化型(顕微鏡で見て、胃の粘膜によく似た固まりを作るがんのことをいいます。未分化型というのもありますが、これは、バラバラに育って固まりを作らないがんのことです)であれば、今までのたくさんの経験から、がんが転移することがほとんどないので、内視鏡で治療します。ただし、取ってみた結果、深いところまでがんが及んでいた場合や、血管やリンパ管に入り込むタイプでは、リンパ節に転移している可能性が高くなりますので、手術を追加して行います。また、2cm以下でも内視鏡で見にくい場所に病気があったりして技術的に難しい場合は手術して治します。逆に、2cmより大きくても高齢者で、手術に相当の危険を伴うときには、内視鏡で治療します。
内視鏡的粘膜切除(EMR endoscopic mucosal resectionに由来)の実際(下図)

内視鏡的粘膜切除(EMR)の件数
| 平成12年 | 平成13年 | 平成14年 | |
| EMR件数 | 12例 | 12例 | 17例 |
胃がん手術法について
胃がんの定型的手術;胃の2/3以上の範囲の切除と第2群までのリンパ節郭清(D2郭清)を行う方法。胃の出口の方を切除:幽門側胃切除

胃の入り口の方を切除:噴門側胃切除

胃の入り口の進行癌や胃癌の広がりが大きい場合:胃全摘術

縮小手術:早期の胃がんに対しては、切除範囲を小さくし胃の出口(幽門)を残す手術(幽門保存胃切除術)や、リンパ節の郭清範囲を狭くしたり、大網という脂肪組織を温存したりする手術(大網温存手術)を行っています。また、胆嚢や胆道を支配する神経を温存する自律神経温存手術を行っています。また、腹腔鏡を使った胃局所切除も行っています。早期の胃がんに対しては、できるだけ患者さんへの不必要な負担をかけずに根治をめざす手術を行っています。

幽門保存胃切除術

腹腔鏡下胃局所切除
拡大手術:胃がんが進行し、胃ばかりでなく膵臓や大腸を一緒に切除する必要な場合があります(他臓器合併切除)。さらに遠くの第3群リンパ節郭清、たとえば大動脈周囲リンパ節郭清を行うことがあります(拡大郭清)。


姑息的手術:胃がんが進行しすぎて切除できない場合、あるいは胃がんの腹膜転移再発により腸の通過障害がおきた場合の患者さんの苦痛を取り除く目的でバイパス手術などを行うことがあります。

科学療法(抗がん剤治療)
- 切除不能の進行癌に対して:切除不能の胃がんに対しては抗がん剤の治療が第一選択になります。
- アジュバント化学療法:手術したのち、残存しているかもしれない癌細胞の再発を防止するために行う抗がん剤による補助治療
- ネオアジュバント化学療法:抗がん剤により癌を小さくしてから手術を行い、治療成績を上げようという目的。
現在本院外科は、厚生労働省が定める日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG: Japan Clinical Oncology Group)http://www.jcog.jp/index.htm の胃がん外科グループの班員として日本の胃がんの臨床研究に参加しています。
緩和医療(ケア)
患者さんのがんによっておこる痛みや吐き気、だるさなどの身体的苦痛と、がんに対する精神的な不安をやわらげるためのケアを行うものです。現在、本院ではがん性疼痛認定看護師を養成中で、院内に医師、がん性疼痛認定看護師、臨床心理士など緩和ケアチームをもうけることが急務と考えています。
本院における胃がんの手術成績
本院における胃がん症例数
| 平成12年 | 平成13年 | 平成14年 | |
| 手術件数 | 123 | 122 | 145 |
本院における平成14年度胃がん・治療法別内訳
| 治療内容 | 例数 | |
|---|---|---|
| 単独療法 | 手術 | 113(うち腹腔鏡1例) |
| EMR(内視鏡的粘膜切除) | 17 | |
| 化学療法 | 48 | |
| 放射線療法 | 0 | |
| その他 | 5 | |
| 合計 | 166 | |
| 合併療法 | 手術+化学療法 | 26 |
| 手術+放射線療法 | 0 | |
| 化学療法+放射線療法 | 3 | |
| その他 | 3 | |
| 合計 | 32 | |
| 緩和治療 | 35 | |
| 無治療(外来) | 11 | |
| その他の手術 | 7 | |
| 全症例 | 577 |
がんの手術後生存率

本院の胃がん全体の手術後5年生存率は58.6%でした。

胃がんの病期(ステージ)別5年生存率は、Stage IA 95.4%、
Stage IB 94.0%、Stgae II 75.0%、Stage IIIA 51.3%、Stage IIIB 12.7%、Stage IV 3.7%でした。
*胃がん治療ガイドラインの解説
一般用2001年12月版 日本胃癌学会編 金原出版株式会社からイラスト・写真を引用させていただきました。
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